エネルギー基本計画 (1)2030年目標

2011年4月4日、経済産業省は、3年ごとに策定しているエネルギー基本計画について、次期計画を1年程度前倒しし、早ければ24年3月末までにも策定することを発表しました。これまでの原子力を軸としていたエネルギー政策を抜本的に見直すことになりそうです。

エネルギー基本計画改訂を1年前倒し策定
2011.4.4

 東日本大震災で被災した東京電力福島第1原子力発電所放射能漏れ事故を受け、経済産業省は4日、3年ごとに策定しているエネルギー基本計画について、次期計画を予定の平成25年より1年程度前倒しし、早ければ24年3月末までにも策定する方針を固めた。原発の新設に理解を得にくくなったことから、原子力を軸としていたエネルギー政策の根本的な練り直しが不可欠と判断した。
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110404/plc11040420390016-n1.htm

エネルギー基本計画は、エネルギー政策基本法に基づき政府が策定するもので、「安定供給の確保」、「環境への適合」、「市場原理の活用」というエネルギー政策の基本方針に則り、エネルギー政策の基本的な方向性を示したものです。2003年10月の策定後、2007年3月に第一次改定を行いました。その後のエネルギーを取り巻く環境変化を踏まえ、2010年6月に第二次改定を行いました。

以下では、2010年6月に公表されたエネルギー基本計画(第二次改定)の概要を整理したいと思います。

エネルギー基本計画は、「第1章.基本的視点」、「第2章.2030 年に目指すべき姿と政策の方向性」、「第3章.目標実現のための取組」の三章で構成されています。

まず、「第1章.基本的視点」では、エネルギー政策を推進する際の基本的視点をとりまとめています。これは震災後も大きくは変わらない視点だと思われます。

エネルギーは国民生活や経済活動の基盤である。エネルギー政策の基本は、エネルギーの安定供給の確保(energy security)、環境への適合(environment)及びこれらを十分考慮した上での市場機能を活用した経済効率性(economic efficiency)の3E の実現を図ることである。
また、我が国が国際競争力を有するエネルギー関連の産業・技術・システムを、強みとして育成・普及していく必要がある。エネルギー政策と我が国の成長戦略とを一体的に推進しなければならない。
さらに、エネルギー政策には、安全と国民理解を大前提としつつ、社会システムや産業構造の改革を実現する視点が不可欠である。

続いて、「第2章.2030 年に目指すべき姿と政策の方向性」は、「第1 節.2030 年に向けた目標」、「第2節.エネルギー源のベストミックスの確保」、「第3節.政策手法のあり方」の三節から構成されています。以下では、第1節に掲げられた2030年に向けた目標を簡単に俯瞰してみます。

まず、供給サイドに関しては、1)自主エネルギー比率、2)ゼロ・エミッション電源比率について2030年の定量目標を定めています。具体的には、現状約38%の自主エネルギー比率を2030年度に70%とし、また、現状34%のゼロ・エミッション電源比率を2030年度に70%とする目標を掲げています。

1.資源小国である我が国の実情を踏まえつつ、エネルギー安全保障を抜本的に強化するため、エネルギー自給率(現状18%)及び化石燃料の自主開発比率(現状約26%)をそれぞれ倍増させる。これらにより、自主エネルギー比率を約70%(現状約38%)とする。
2.電源構成に占めるゼロ・エミッション電源(原子力及び再生可能エネルギー由来)の比率を約70%(2020 年には約50%以上)とする。(現状34%)

自主エネルギー比率は、エネルギー自給率と分母は同一だが、分子に自主開発権益からの化石燃料の引取量を加算したものです。基本的には、国産エネルギー(再生可能エネルギー等)及び準国産エネルギー(原子力)の増加に力点を置き、自主開発比率は40%の引き上げが目標として掲げられました(現状は約20%)。ただ、純国産エネルギー(原子力)の比率が落ち、代替エネルギーとして天然ガスの比率があがると、この自主エネルギー比率、自主開発比率の目標達成は、従来の延長線上では、かなり厳しいと言わざるをえません。

また、2009年8月に発表された「長期エネルギー需給見通し(再計算)」では、2030年の総発電量9,646億kWhに対して、原子力発電が4,695億kWh(48.7%)、新エネルギー等が907億kWh(9.4%)、水力が889億kWh(9.2%)、地熱が75億kWh(0.8%)となり、合計で約68%となる計算でした。つまり、ゼロ・エミッション電源の7割を原子力に期待していた訳ですが、福島第一の事故により、このゼロ・エミッション電源比率の目標から再検討する必要がでてきました。

一方、需要サイドに関しては、温暖化ガスの排出目標を踏まえて、家庭部門についてCO2発生量を50%削減するという定量目標を掲げました。

3.「暮らし」(家庭部門)のエネルギー消費から発生するCO2 を半減させる。
4.産業部門では、世界最高のエネルギー利用効率の維持・強化を図る。

上記の「長期エネルギー需給見通し(再計算)」は、経済成長率を1.3%と想定し、2007年に原油換算で4億800万klだった最終エネルギー消費を、本格普及が想定される最先端技術を最大限導入することにより、2020年時点で3億7,500万kl(▲9.2%)、2030年時点で3億4,600万kl(▲16.9%)まで抑制するとしています。震災後のエネルギー基本計画においては、原子力発電の抜けた穴を供給サイドだけで補うことは難しいため、改めて需要サイドでのエネルギー消費量の削減を考えることになると思われますが、需要サイドも従来の延長線上では容易に解は出ないと思われます。

次回からは、「第3章.目標実現のための取組」について、個別に見ていきたいと思います。