エネルギー基本計画(2)原発事故の影響

エネルギー基本計画(第二次改定)の「第3章.目標実現のための取組」では、第2章で掲げた2030年に向けた目標を実現するための各種取り組みが合計10の節にわたって述べられています。

第1節.資源確保・安定供給強化への総合的取組
第2節.自立的かつ環境調和的なエネルギー供給構造の実現
第3節.低炭素型成長を可能とするエネルギー需要構造の実現
第4節.新たなエネルギー社会の実現
第5節.革新的なエネルギー技術の開発・普及拡大
第6節.エネルギー・環境分野における国際展開の推進
第7節.エネルギー国際協力の強化
第8節.エネルギー産業構造の改革に向けて
第9節.国民との相互理解の促進と人材の育成
第10節.地方公共団体、事業者、非営利組織の役割分担、国民の努力等

資源開発
まずは、「第1節.資源確保・安定供給強化への総合的取組」からみていきましょう。同節の冒頭で、「化石燃料の自主開発資源比率を、2030 年に倍増(現状約26%)させるとの目標の実現のため、国産を含む石油及び天然ガスを合わせた自主開発比率を40%以上(現状は約20%)、石炭の自主開発比率を60%以上(現状約40%)に引き上げることを目指す」としています。

自主開発資源の必要性について、2008年3月に閣議決定された「資源確保指針」から引用します。

近年、資源価格の高騰や資源ナショナリズムの高まりを背景に、資源産出国による自国資源の国家管理の強化が顕著となっている。
資源産出国において、その探鉱及び開発に係る権益が国又は国営企業により独占され、あるいは外国資本に対する参入規制が強化される事例が増加している。このような場合においては、本邦企業が探鉱又は開発に係る鉱区を取得するに際し、国営企業とパートナーシップを構築することを含め、当該資源産出国の政府又は国営企業と交渉することがより一層必要となる。このような政府又は国営企業との交渉には、より多くの場合において、当該事業を遂行する民間企業等に加え、政府が直接参加することが求められる。
また、開発・操業段階において、開発・操業の事業遂行が民間企業に委ねられていても、ロイヤリティや税の引き上げ、輸出・開発規制、付帯条件の義務付けなど、資源産出国の政府の関与が強化される事例が増加している。このような場合においては、契約の着実な履行を確保するため、当該政府に対し、多国間又は二国間の国際ルールに整合的な対応を要請することが政府に求められる。

ただし、2010年2月に失ったサウジアラビアのカフジ油田の採掘権をカバーする大型油田として期待されていたイランのアザデガン油田の権益を2010年10月に手放すなど、自主開発比率の増大はなかなかうまくいっていないというのが実情です。

エネルギー基本計画では、具体的な取り組みとして、石油・天然ガスの安定供給確保のために、「資源国との二国間関係の強化」、「我が国企業による上流権益獲得に対する支援」、「市場安定化に向けた取組」を挙げています。また、海洋エネルギー・鉱物資源開発の強化として、メタンハイドレードについて「平成30 年度(2018 年度)を目途とした商業化の実現に向けて、陸上及び海域での産出試験の推進等により、我が国の生産技術の研究実証を踏まえた技術の整備を行う」としています。一方、石炭に関しては、日本企業が持つクリーンコール技術の供与を通じて、産炭国との互恵関係の構築を目指すものとされています。

今後、天然ガスLNG)の役割がこれまで以上に大きくなることが予想されます。LNGに関しては、調達先の多様化に加えて、現在の原油リンクのフォーミュラーの是非に関する議論が必要になってくると思われます。

第1節では、エネルギーの安定供給源確保以外にも、「国内における石油製品サプライチェーンの維持」や「緊急時対応能力の充実」など、今回の震災で問題になったテーマを取り上げているのですが、これらに関するコメントは別の機会に譲りたいと思います。

電源政策
さて、続く「第2節.自立的かつ環境調和的なエネルギー供給構造の実現」では、「1.再生可能エネルギーの導入拡大」、「2.原子力発電の推進」、「3.化石燃料の高度利用」、「4.電力・ガスの供給システムの強化」が語られています。

再生可能エネルギー
まず、再生可能エネルギーに関しては、「2020年までに一次エネルギー供給に占める再生可能エネルギーの割合について10%に達することを目指す」とされています。2009年8月に示された「長期エネルギー需給見通し(再計算)」では、2020年の一次エネルギー供給における再生可能エネルギーの割合は約9%(水力を含む)、総発電量に占める再生可能エネルギー起源の電力比率は約13.5%でした(水力を含む)。欧米諸国に比べるとこの目標値は低いですが、太陽光発電や太陽熱発電、風力発電の賦存量の差を考えると、安易に欧米並みの水準にすべきということはできません。かつて麻生元総理は、温室効果ガス2005年比▲15%削減を達成するための国民負担は、世帯あたり月額約6千円と発表したこともあり、電源の経済性も考慮しなければなりません。

原子力
さて、続いては原子力発電です。エネルギー基本計画では、原子力発電に関して次のように述べていました。

原子力は供給安定性と経済性に優れた準国産エネルギーであり、また、発電過程においてCO2 を排出しない低炭素電源である。このため、供給安定性、環境適合性、経済効率性の3E を同時に満たす中長期的な基幹エネルギーとして、安全の確保を大前提に、国民の理解・信頼を得つつ、需要動向を踏まえた新増設の推進・設備利用率の向上などにより、原子力発電を積極的に推進する。また、使用済燃料を再処理し、回収されるプルトニウム・ウラン等を有効利用する核燃料サイクルは、原子力発電の優位性をさらに高めるものであり、「中長期的にブレない」確固たる国家戦略として、引き続き、着実に推進する。その際、「まずは国が第一歩を踏み出す」姿勢で、関係機関との協力・連携の下に、国が前面に立って取り組む。
具体的には、今後の原子力発電の推進に向け、各事業者から届出がある電力供給計画を踏まえつつ、国と事業者等とが連携してその取組を進め、下記の目標の実現を目指す。
まず、2020 年までに、9基の原子力発電所の新増設を行うとともに、設備利用率約85%を目指す(現状:54 基稼働、設備利用率:(2008 年度)約60%、(1998年度)約84%)。さらに、2030 年までに、少なくとも14 基以上の原子力発電所の新増設を行うとともに、設備利用率約90%を目指していく。これらの実現により、水力等に加え、原子力を含むゼロ・エミッション電源比率を、2020 年までに50%以上、2030 年までに約70%とすることを目指す。

2009年8月に発表された「長期エネルギー需給見通し(再計算)」における2005年度の原子力発電の実績は、年度末設備容量が4,958万kW、発電電力量が3,048億kWhでした。設備率は70.2%です。一方、2020年度の見通しは、年度末設備容量が6,015万kW、発電電力量が4,345億kWhで、設備率は82.5%でした。設備容量は、1,057万kW増加し、設備率が12.3ポイント改善するという見通しです。2006年3月に北陸電力の志賀2号(120.6万kW)、2009年12月に北海道電力の泊3号(91.2万kW)が運転開始しているので、増加分1,057万kWのうち211.5万kWはすでに現実化していることになり、差分は845.5万kWということになります。

まず、現時点の供給計画に挙げられた原子力発電の新増設計画は、合計で14基、1930.8万kWです。中国電力の島根3号はほぼ完成しており、2012年3月に運転開始の予定、電源開発の大間も2014年の運転開始に向けて2008年5月に着工しています。今後の電源政策を考えるにあたり、これら原子力発電所の新増設をどう見るかが一つのポイントとなります。

一方、原子力発電所の高経年化ももう一つの問題となります。福島第一の1号機は今年の3月26日に設計寿命の40年を迎えました。これに対して、原子力安全・保安院は今年の2月7日に10年間の運転継続を認可しています。

原子力発電所の高経年化対策については、運転開始後30年間を経過した原子力発電プラントは、「高経年化対策に関する報告書」を提出することとなっており、10年ごとに定期安全レビュー行うことになっています。概要は、原子力安全基盤機構のサイトをご覧ください。

1970年代に運転開始した原子力発電所は、2020年までに運転開始40年を迎えることになります。これら原子力発電所の合計は18基、1,340.6万kWとなります。日本原子力発電敦賀1号(35.7万kW)、関西電力の美浜1号(34万kW)、東京電力の福島第一1号(46万kW)は既に40年を経過しています。1970年代は原子力発電所の建設ラッシュだったため、来年以降もほぼ毎年のように複数の原子力発電所が運転開始40年目を迎えます。

仮に2020年までに運転開始40年目の原子力発電所がリタイアし、島根3号(137.3万kW)と大間(138.3万kW)を除く新増設計画が実現しなかった場合、2020年時点の原子力発電所の総容量は、3,819.7万kW(38基)となります。「長期エネルギー需給見通し(再計算)」の想定値4,958万kWに対して、1,138.3万kW少なくなります。また、設備率の向上も容易に見込めないため、仮に2020年時点の設備率を70%とすると、38基の原子力発電所の発電電力量は、2,342億kWhとなります。「長期エネルギー需給見通し(再計算)」の想定値4,345億kWhに対して、2,003億kWh少なくなります。

原子力発電の新増設が計画通りに行かず、高齢化した原発が順次リタイアした場合、2020年時点で約2,000億kWhの不足が生じると考えて良いでしょう。脱原発の議論は、この2,000億kWhの穴をどのようにして埋めるのか、という議論と表裏一体であり、次のエネルギー基本計画を策定するにあたり、最大の論点となるでしょう。