21世紀の国際関係 −張子の虎 (〜2020年)

m39532009-02-17

前回に引き続き、反米陣営の主力と目されている中国について、ジョージ・フリードマンの見解を紹介したいと思います。

三つの将来シナリオ

中国に関しては、三つの将来シナリオを想定することができます。一つは、これまでと同様の驚異的な経済成長を継続するというもの(シナリオ1)。続いて、経済成長にブレーキがかかり、“海の中国”と“陸の中国”、中央政府と地方政府の間の摩擦が増大するものの、中央政府ナショナリズムを利用して統一国家の維持に成功するというシナリオ(シナリオ2)。そして、経済成長に歯止めがかかり、中央政府が地方をコントロールしきれなくなるというシナリオ(シナリオ3)、この三つのシナリオです。

行き詰る経済成長

ジョージ・フリードマンは、中国はこれまでの高度成長を維持することができず、2010年代に、社会的、政治的な混乱に見舞われるようになると考えています。特に、非効率な金融市場(資本分配)に着目し、バブル崩壊以前の日本に中国を重ねます。事業リスクを無視した融資により、事業家は低金利を享受していますが、実際の事業リスクを勘案した金利設定になった場合、多くの事業が不採算事業になっているのではないか、という問題提起です。つまり、中国は規模(売上)は拡大しているものの、実際は見た目ほど利益が出ていないのではないかと考えています。このツケは、不良採算という形で現れ、すでに60〜90兆円の不良債権(中国GDPの4分の1から3分の1に相当する額)が累積していると見積もられています。また、必要な経済成長を支えるには、技術力のある労働者が不足するだろうと、フリードマンは考えます。これらを背景に、フリードマンは、まずシナリオ1(継続成長シナリオ)を否定します。

悪夢再び

こうして経済成長にブレーキがかかった中国は、2010年代に国内で政治的な摩擦が大きくなります。中央政府は、反米・反日感情を利用してナショナリズムに求心力を求めますが、ここで問題になるのは中国の海軍力です。これまで陸軍を中心に維持されてきた中国の軍事力は、十分な海軍力を持たず、海軍力を高めようと思っても、十年単位の時間が必要となります。結局、十分な海軍力を持たない中国中央政府は、米軍の海軍力に実際に対抗することはできず、反米・反日の旗の下に国家の求心力を維持することにも限界が現れ、何もできずに(台湾侵攻も実現せず)、自壊の道を辿っていく、というのがフリードマンのシナリオです。

日本の台頭

具体的には、日本が“海の中国”に積極的に働きかけ、海岸の地方政府が中央政府から離反する動きを加速化します。この時期、日本は、深刻な人口減少問題に直面しており、具体的な移民政策を講じることができず、結果、国内で不足した労働力を補うため、中国の労働市場への依存度をいっそう高めています。一方、“海の中国”の地方政府も、中央政府の地方格差是正措置や国家主義を嫌い、個々に日本との距離を縮めていきます。2020年代の中国は、20世紀初頭の清朝末期の状況に酷似した状況に陥り、その先、反米陣営の中心として勢力を盛り返すことはないと、フリードマンは考えます。

実際にこの先10年の中国をどう見るのか、日本企業にとっては非常に重要な問題ですが、フリードマンの視点に立つと、日本企業が“海の中国”との連帯をとっている限りは、大きな間違いはないということなのでしょうか。

次回は、2030年代の米国について紹介したいと思います。