21世紀の国際関係 −方向転換を迫られる日本(2020~40年代)

m39532009-02-21

2020年代にロシアと中国が自壊することによって、ユーラシア大陸は混乱の時代を迎えます。以前に触れたよう、この時代に三つの新興勢力が台頭します。日本、トルコ、ポーランドです。いずれも対ロシア、対中国の観点から米国が積極的に支援を行っていた国々です。2020年代~30年代は、この三国が急速に国際舞台に台頭する時代になります。

ちなみに、中国と並んで21世紀の大国と目されているインドについてですが、ジョージ・フリードマンは、ヒマラヤ山脈によって隔離されたインドの地政学的な特徴が、インドの積極的な対外進出を妨げるとして、インドが国際舞台の新興勢力として台頭することは暫くないだろうと考えているようです。

さて、今回は、新興勢力として挙げられた日本から見ていくことにしたいと思います。

方向転換を迫られる日本
2010年代から2020年代にかけて、日本は、深刻な人口減少問題に直面し始め、社会的、文化的に移民の受入が困難なことから、真剣に労働力を国外に求めるようになります。そして、その一番の候補地が中央政府と地方政府が対立を始めた中国になります。また、労働力のみならず、天然資源、特に原油について中東依存度を一方的に高めていく日本は、ロシアの崩壊を景気に、サハリンを初めとする極東の天然資源に対する意識をいっそう強めることになります。

フリードマンは、日本の軍事拡張に対する消極的な姿勢をふまえてもなお、日本は軍事力の拡張を図り、太平洋地域に対する影響力を拡大せざるを得ないだろうとしています。2050年には、日本は1.07億人にまで人口が減少し、65歳以上の人口の割合が4千万人を超える一方、14歳以下の人口がその3分の1にあたる1.4千万人になり、超高齢化社会を迎えることになります。つまり、全人口の過半数が非労働世代となり、何も手を打たなければ日本経済が立ち行かなくなることは自明です。従って、フリードマンは、2020~30年代の日本は、2050年を見据えて、経済力、軍事力の両面で、太平洋地域における影響力を図らざるを得ないだろうと考えます。

また、フリードマンの基本観は、海上貿易に依存する東アジア諸国は、太平洋における米国との間の軍事アンバランスを放置することはできず、防衛的な観点から海軍力の増強を図るだろうという点にあります。特に石油資源を海外輸入に頼り、2008年までの油価高騰を体験した各国は、米国によるシーレーンの単独支配に対する懸念を強めていくと考えています。

さらに、フリードマンは、日本国民の柔軟性に着目し、これまでの平和主義から軍事拡張へ舵を切ることは、十分にありうると見ています。日本はこれまで、明治維新第二次世界大戦を通じて、日本人としての一体感を保持したまま、ドラスティックな社会システムの変革を実現してきました。島国であることが国民の文化的、社会的一体感の保持に寄与しており、それにより日本人は政治的、経済的な変革に対する高い受容性を持っているとフリードマンは考えます。

こうして徐々に経済力と軍事力を背景に太平洋地域に影響力を拡大する日本に対して、米国は徐々に危機感を覚えるようになります。2030年を迎える頃には、米国は本格的に危機意識を持つようになり、朝鮮半島を統一した韓国を対日本のパートナーとして積極的に支援するようになります。2040年を迎える頃には、ソウル、北京が米国の対日パートナーとして太平洋地域で重要な役割を果たすようになっているというのが、フリードマンのシナリオです。

さて、ここで一度、ちょっと脱線してしまいますが、日本の高齢化社会に対する経済同友会のレポートを少しご紹介したいと思います。

人口減少社会にどう対応するか −2050年までの日本を考える−
経済同友会、2006年06月30日
http://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2006/060630a.html

まず、同友会の問題意識からです。

人口減少下の日本を論ずる視点には楽観論から悲観論まで様々なものがあるというのが現実である。楽観論も色々で、何も考えずに「なんとかなる」と言っているのは論外としても、日本人の優秀性や日本人の労働の質の高さを論拠にして「なんとかなる」とする議論がある。また、「グロスの経済規模は下がっても、一人当たりの所得が下がらなければ良い」「人口の減る分、ゆったりした生活ができる」「労働力人口の減る分、生産性の向上で補えば良い」といったものもある。これらの議論に一分の理もないとは言わぬが、総じて、2050 年までの間に生産年齢人口が40%減り、人口の重心が激しく高齢者に偏るという、過去に参照すべき実例のない変動のマグニチュードを見落とした、「根拠なき楽観」と呼ぶべきものが多いように思える。
このマグニチュードの下で一人当たりの経済レベルを維持できるかという危惧も強いが、維持できたとしても、それだけでは我々がこれから提示するような、日本の国と社会が全体として抱える問題は解けない。また、国力維持のためには「生産性の向上」が絶対的なカギであることは間違いないが、それには、国と国民挙げての並々ならぬ努力が求められるということの、切実な認識が必要なのである。

そして、同友会は、人口減少に伴い発生する問題を七つ取り上げます。1)人口減少に連動した経済力低下、2)食料・エネルギー等の輸入購買力の低下、3)社会保障、防衛、治安、国土保全、教育等社会インフラのための支出における問題、4)国・地方の財政破綻、5)基礎的社会サービス(上下水道・学校・消防・医療等)の提供、5)困難な地域の拡大、6)社会の活力の大幅な低下、7)世界における存在感の大幅な低下、です。国際関係と絡みがある問題として、3)をご紹介しましょう。

次に考えられるのは、国と社会を支える基本的なインフラの支出が十分にできなくなるという問題である。社会保障について言えば、高齢者人口比率は現在の19.5%から2050 年には37.4%へと急増する。この結果、現時点では高齢者人口と生産年齢人口の比率が1 対3.4 であるのに対して、2050 年には、1 対1.4 になることが予想される。つまり、現役世代1.4 人で一人の高齢者の面倒をみなければならないことになる。この数字だけでも、現役世代が高齢者を支える現行の社会保障制度では、遠からず行き詰ることが明白である。逆に、現状の制度を維持し続けようとすれば、現役世代一人当たりの国民負担は激増する。これに加えて、経済全体が縮小していけば、社会保障のみならず、防衛、治安、国土保全、教育等の社会インフラのための支出に耐えられなくなる恐れがある。

そして、同友会は、九つの処方箋を紹介します。1)労働力活用、労働生産性向上による経済力低下、の防止、2)食料・エネルギー等輸入購買力の問題、3)社会保障、防衛、治安、国土保全、教育等社会インフラのための支出に関する問題、4)財政再建、5)世界における存在感(総合国力)の維持・向上、6)その他社会の活力と質を向上させるための方策、7)地域格差への対応、8)改革推進の政治、9)人口減少食い止めの努力、です。

この労働力活用の延長として、海外における労働力活用を同友会は一方策として取り上げますが、フリードマンは、労働力を海外に求める以外に日本に残された道はないと考える訳です。しかも、日本が対外政策の舵きりをするのであれば、タイムリミットは2020年代になるというのが彼の見方でした。

さて、ここまで読んでお気づきの方も多いと思いますが、基本的なフリードマンの発想は、「歴史は繰り返す」です。上記のシナリオも、20世紀前半に太平洋地域で起こったことが、このシナリオのモチーフになっているような気がします。ただ、フリードマンは、ここで20世紀と異なり、21世紀にドイツに代わる、新たな反米勢力の機軸の登場を予想します。トルコです。次回は、トルコの台頭についてご紹介したいと思います。