21世紀の国際関係 −トルコ再び(2010~40年代)

m39532009-03-08

少し時間が空きましたが、引き続きジョージ・フリードマンの「The Next 100 Year」をベースに21世紀の世界を見ていきたいと思います。欧州を中心に米露間で繰り広げられる第二次冷戦、米国の支援を受けたトルコは、その軍事的な存在感を飛躍的に増大させます。まずは、トルコを囲む各地の状況から見ていきましょう。

第二次冷戦が引き起こす各地の政情不安 (2010~20年代
トルコは、東西南北いずれの方面にも問題地域を抱えています。まず、北部は、コーカサス地方を巡りロシアと利害を対立させます。東部に目を向けると、歴史的に政情不安に揺れるイランがそこに存在します。また、南部には、同じく政情不安が恒常化しているアラブ諸国が割拠し、そして北西に目を向けると、宿敵ギリシアを含むバルカン半島が紛争の火種を供給し続けています。これらの地域の政情不安は、2020年代まで続くことが予想されます。

まず、北部のコーカサス地方ですが、グルジアを併合したロシアがアルメニアと共に更なる南下を目指します。これに対してトルコは、米国の支援を受けながら、ロシアの南進に抵抗しつつ、2020年前後に、同地域におけるロシアの影響力を徹底的に排除すべく北進を試みるでしょう。

一方、トルコ東部に位置するイランは、米国および他のアラブ諸国と対立し続け、同地域で覇権争いをするまでの軍事的、経済的な存在感を示せずに孤立感を強めます。

また、南部に割拠するアラブ諸国も十分な経済成長を果たせないまま、2020年までに衰退していくことが予想されます。2010年代後半の第二次冷戦において、米国・トルコの政治・軍事資源を分散すべく、ロシアはアラブ諸国の混乱を誘発しようと試みます。これにより、アラブ諸国は恒常的な政情不安に悩まされ続けます。

そして、トルコ北西部に位置するバルカン半島も第二次冷戦の影響を大きく受けることになります。アラブ諸国に対して行ったのと同様に、ロシアはブルガリアセルビアクロアチア等に働きかけ、反ロシアで動き出したハンガリールーマニアを牽制します。ロシアが直接バルカン半島に進軍するためには、ボスフォラス海峡を通過しなければなりませんが、ここで再びトルコと対立を強めることになります。

トルコの台頭 (2020年前後)
北に西に直接ロシアと利害を反するトルコは必然的に米国との連携を強化します。また、米国も反ロシアの同盟国として軍事的な支援を惜しまず、トルコは、陸海空いずれにおいても軍事力で地域における突出した存在感を示すようになります。また、軍事力だけでなく、経済力においても、アラブ諸国、イラン、欧州、旧ソ連の各地に繋がる地の利を活かし、地域の経済拠点としての地位を向上します。2007年時点で世界17位の経済力は、2020年までにトップ10入りしていることでしょう。
こうしてロシアの自滅とともに第二次冷戦が終焉を迎える2020年頃には、トルコは、同地域において軍事的・経済的に抜きん出た存在になっていることが予想されます。

一方、トルコの台頭に対して、アラブ諸国はこれを必ずしも快く受け入れる訳ではありませんが、イスラエルやイランに比べれば、トルコの方がよほど受け入れやすく、次第に経済面、安全保障面におけるトルコへの依存度を高めていきます。

トルコの躍進 (2030~40年代)
2030年代に入ると、ロシアという共通の敵が去り、徐々に米国とトルコの間に溝ができ始めます。地域の覇権国の登場を嫌う米国に対して、トルコはイスラムの盟主として振舞い、イスラム世界の支持を背景に、米国の動きを牽制しようと試みます。2040年代の半ばまでに、トルコは、周辺の不安定地域を自らの勢力下に取り込み、かつての大帝国を復活させます。その過程を、先ほどと同様に東西南北それぞれについて見ていきましょう。

まず、北部ですが、トルコはコーカサス地方を超えて、さらに北までその影響力を拡大します。黒海沿いのクリミア半島オデッサはトルコとの経済的な連帯を強め、黒海はトルコの影響下に置かれることになります。また、トルコ同じムスリム国家であるカザフスタンを含む中央アジアも同様にトルコとの連帯を強めます。さらに、その勢力を著しく減退させたロシアもこの頃にはトルコとの連携を強め、トルコに対する穀物、エネルギーの供給主体としての役割を担っていることでしょう。

一方、トルコの南部に眼を向けると、レバントからアフガニスタンまで依然、政情不安が続いています。トルコにとって、東のイランは孤立させておけば済みますが、シリアやイラクの政情不安は放置できません。ロシアの支援が失ったシリアやイラクでは、政権がクルド人独立運動の鎮圧に苦しみます。このクルド人独立運動に対する懸念が、トルコをシリアとイラクの直接統治に踏み切らせます。これによりトルコの影響力は、アラビア半島にまで及ぶようになります。

トルコ北西部に位置するバルカン半島は、ロシアの影響力が減退するに従って、ハンガリールーマニアギリシアなど各国が自国の影響力を拡大すべく動き出します。黒海および東地中海の覇権を目指すトルコもボスニアアルバニアと連携しながら同地域への影響力を拡大します。ハンガリールーマニアは米国の支援の下、トルコへの抵抗を試みますが、トルコの伸張を阻止することはできず、その影響力はエーゲ海を越えて、アドリア海の出入り口にあたるオトラント海峡にまで及ぶことになります。

さらにこの時期、トルコは覇権拡大に向けて決定的な一歩を踏み出します。エジプトの占領です。政情不安が慢性化するエジプトに対して、ムスリム国家の盟主を自負するトルコは、政情安定化を名目に、ある日突然、エジプトに平和維持軍を送り込みます。これにより、トルコはスエズ運河という一大要所を押さえることに成功します。イスラエルはこの時期までその勢力を維持し続けているものの、ムスリム国家の盟主と正面から対立することはできず、共存路線を選択せざるを得ない状況に置かれます。

インド洋の東と西で
こうしてスエズ運河を押さえたトルコは、紅海を越えてペルシア湾までその軍事的な存在感を増大させます。これを面白く思わない米国は、方々でトルコを牽制しようと試みますが、時期を同じくして、インド洋のちょうど反対側にある国がトルコ同様に軍事的な存在感を拡大します。日本です。世界の海を支配する米国への対抗馬として浮上したトルコと日本は利害を同じくし、経済的、軍事的な連帯を次第に強めるようになります。

さて、トルコの台頭については、この辺までにしたいと思います。次回は、各国の動きから少し離れて、21世紀の軍事技術がどうなっていくのか、21世紀の戦争は20世紀の戦争とどう異なるのかを見ていきたいと思います。