21世紀の国際関係 −戦争の宇宙化

m39532009-03-11

今回は、21世紀の戦争がどのようなものになるのかを見ていきたいと思います。まずは、20世紀の戦争のレビューから始めましょう。

20世紀の戦争 −低い命中率がもたらした戦争の「全体化」
第一次世界大戦第二次世界大戦の大きな特徴は、戦争が「全体化」された点にありました。動員可能な成年男子が徴兵制のもと戦場に駆り出され、最大限の工業力が軍需品生産に投入されました。戦争の全体化を、民主主義(徴兵制)と産業化(大量生産・大量破壊)に求める論者もいますが、ジョージ・フリードマンは、戦争が全体化した要因をテクノロジーに求めます。

近現代の戦争では、ミサイルやライフルなど弾道兵器(ballistic weapon)が主力兵器となっています。この弾道兵器の特徴は、一度発射されると方向を変更できない点にあります。弾が対象に命中するか否かは、狙撃手の腕にかかっており、こうした弾道兵器は、本質的に「非正確(inaccurate)」な性質を内在しています。従って、この命中率の低さを補うために、「下手な鉄砲も数撃てば当たる」の路線を突き進みます。つまり、大量の狙撃手と大量の銃・弾丸を用意して、戦場を弾丸で埋め尽くすわけです。これら兵士と兵器を戦場まで輸送するために、国家総動員サプライチェーンを支えます。また、大量の物資輸送が伴うため、輸送用燃料、つまり原油が戦略物資となりました。こうして国家総動員体制のもと、戦争が「全体化」していったのです。

21世紀の戦争 −規模の縮小と専門化
21世紀の戦争は、技術革新による命中率の飛躍的な向上により、20世紀の戦争と全く異なる様を呈します。1960年~70年代から精密誘導兵器(PGM兵器:Precision Guided Munition兵器)が利用され始めましたが、21世紀に入り、米国はこのPGM兵器の性能を飛躍的に向上します。その背景として、人口減少時代、大量の兵士と兵器を送り出すことが合理的、経済的でなくなることが挙げられます。より命中精度を向上し、戦場へ送り出す兵士と兵器の数を削減することが米国にとって主要命題となるのです。

こうして開発された兵器は、 極超音速爆撃機(unmanned hypersonic aircraft)と呼ばれます。スクラムジェットエンジンを搭載したこの極超音速爆撃機は、地球の裏側まで一時間以内に到達し、確実にターゲットを狙撃した上で、再び発射基地へ帰還します。

米国国防高等研究計画局のファルコン計画
http://www.darpa.mil/tto/programs/Falcon.htm

この超音速爆撃機の登場により、戦争のあり方が一変します。もはや大量の兵士も大量の兵器も必要ありません。また、大量の兵士と兵器を輸送するための船団も、輸送に必要な大量の原油も必要なくなります。つまり、21世紀の戦争は、20世紀の戦争と比べて、遥かに小規模なものとなることが予想されます。また、20世紀の戦争では戦闘員と一般市民の垣根がなくなり、戦争が「全体化」しましたが、21世紀に再び戦闘員と一般市民が分化し、戦争が再び「専門化」するでしょう。

戦争の「宇宙化」
さて、こうした先端技術を活かすも殺すも、その司令塔次第です。古今東西、戦争において最も重要なことは、戦場を正しくリアルタイムに把握することです。戦争が世界各国を巻き込んで行われる中、リアルタイムに全世界の戦場を把握するためには、宇宙から地球を観察する以外に方法はありません。宇宙を制するものが海を制し、世界を制するのです。現に今でも、世界の軍隊は、軍事衛星からの情報に大きく依存しています。2007年1月時点における軍事衛星の数は、米国が137基でトップ、ロシアが63基と続き、その後は、各国ともどんぐりの背比べ状態です(仏:10基、中:8基、英:5基、日本:3基)。

さらに、宇宙空間は、地球を観察する場所としてだけではなく、地上に設置された極超音速爆撃機に対して指令を出すコントロール・センターとしての機能も持つようになります。何故なら、地上にのみ司令塔がある限り、敵からの脅威を完全に排除できないからです。当然、宇宙空間でも敵の脅威を完全に排除することはできません。コントロール・センターの役割を果たす母艦は、敵からの攻撃を防御する衛星や敵を直接攻撃する衛星を従えることになるでしょう。

ジョージ・フリードマンは、今世紀半ばまでに極超音速爆撃機と宇宙空間をベースとした軍事システムが実現されるだろうと考えています。また、宇宙空間においてコントロール・センターの役割を果たす母艦を「バトル・スター(Battle Star)」と命名しています。このバトル・スターには、様々なミッションを負った数百人の専門家が暮らし、外壁は高エネルギービームを遮断する新素材で作られ、遥かかなたから接近する未確認物体を関するセンサーを備え、障害物や敵対機を攻撃するエネルギービームが装備されているそうです。完全にスター・ウォーズの世界です(さらに、フリードマンは、米国は三基のバトル・スターを稼動するとし、主力バトル・スターは、ペルー沖合の静止軌道上、二基目はパプア・ニューギニア上空、三基目はウガンダ上空に打ち上げられるだろうとしています)。

こうした米国の動きに対して、日本も対抗措置をとるだろうというのがフリードマンの見方です。2020年を過ぎたあたりから、宇宙開発プログラムに本腰を入れ始め、2030年までには、日本にとって脅威となる米国のバトル・スターの非戦力化を本格的に検討し始めるだろうとしています。そして、2040年までには、月面に基地を建設し、(表向きは)非軍事目的の各種実験を行っているだろうと考えます。実際に現在でも国防省は、「宇宙開発利用推進委員会」を設立し、各種検討を行っています。

宇宙開発利用推進委員会
http://www.mod.go.jp/j/info/uchuukaihatsu/index.html

21世紀は「宇宙を制するものが世界を制する」世紀になり、フリードマンは2040年代に宇宙戦争の勃発を予想します。

宇宙戦争に話を移すまえに、日本、トルコとならんで第三の新興勢力として挙げられたポーランドについて、次回は見ていきたいと思います。