21世紀の国際関係 −分断から拡大の時代へ突入するポーランド

m39532009-03-13

今回は、ジョージ・フリードマンが、日本、トルコと並び21世紀に新興勢力としてその台頭を予想したポーランドについて見ていきたいと思います。いきなりポーランドに焦点を当てる前に、ジョージ・フリードマンの欧州観からご紹介しましょう。


一つになれない欧州
21世紀の欧州を占うにあたり、この先、欧州連合EU)がさらなる統合を遂げるのか、国民国家の集合体としての性格をぬぐいきれずに終わるのか、が大きな論点となります。これについてフリードマンは、後者のスタンスをとります。欧州連合は、所詮、異なる文化を持った異なる民族から構成される国民国家の集合体であり、その性格は、米国や中国よりもむしろラテン・アメリカに近いものがある、と彼は考えます。

地政学的にみると、欧州は四つの地域に分けることができます。まず、大西洋ヨーロッパ(Atlantic Europe)。ここには、イギリス、オランダ、フランス、スペイン、ポルトガルなど大西洋に面した欧州各国が含まれます。いずれの国も、過去五百年間続いた“欧州の時代”において、一度は覇権を勝ち取った国です。続いて、中央ヨーロッパ(Central Europe)。ここにはドイツとイタリアが含まれます。19世紀後半になって国家統合を果たしたドイツとイタリアが、20世紀の二度の世界大戦を引き起こしました。そして、東ヨーロッパ(Eastern Europe)。第二次大戦以降、旧ソ連の影響下に置かれた国々で、第一次冷戦期の苦い記憶が、現在の国民意識(National Identity)に色濃く繁栄されています。最後に、スカンジナビアフリードマンは、たいして重要ではないとして、この先、ほとんどこの地域に言及しません。

20世紀の前半、国際舞台に遅れて登場した統一ドイツは、大西洋ヨーロッパの各国が作り上げた既存の枠組みに収まることができず、二度の世界大戦を引き起こしました。第二次大戦が終わった後も、ドイツが置かれた地政学的な状況は変わらず、西ドイツが再び世界大戦の引き金を引く可能性が残されていました。フリードマンは、西ドイツのNATO及び欧州共同体への統合によって、ようやくドイツは欧州に収まりどころを見つけ、同国に端を発する第三次大戦の可能性が減少したと考えます。

しかし、NATOや欧州共同体は結局のところ第一次冷戦の産物であり、第二次冷戦下では機能不全に陥るだろう、とフリードマンは考えます。東ヨーロッパを挟んでロシアと対峙するドイツは、さらに西方に位置する大西洋ヨーロッパ各国に比べてずっとロシアを脅威に感じています。このロシアに対する脅威の感じ方の違いが、ロシアに対する外交政策の足並みを乱れさせ、欧州連合として一体となった外交政策の実現を困難にします。


第二次冷戦 (2010~20年代
第二次冷戦中の米国は、ポーランド及びバルト三国に対する軍事技術供与という形でロシアの勢力拡大を阻止しようと試みます。米国は、東欧諸国の支援を通じて、欧州を分断したいとも考えており、強すぎる欧州、強すぎるロシアを牽制するための一石二鳥の手として、東欧支援を積極化します。

一方、ロシアの基本戦略は、NATOの分断と、東欧諸国の孤立です。ここで鍵を握るドイツは、ロシアと基本的に利害を共有しています。両国は、天然ガスの売り手・買い手の関係にあるだけでなく、東欧諸国(特にポーランド)の過度な新米化を妨げ、両国間の中立地帯として維持したいと考えます。結局、ドイツはNATOのロシアに対する軍事措置を嫌い、第二次冷戦においてNATOは具体的な機能を果たせないまま、その歴史に幕を閉じます。

こうしてドイツ(及びフランス)は、人口減少に起因する経済の低成長という問題を内に抱え、また、東ヨーロッパ諸国に対する米国の著しい影響力の増大に複雑な想いを抱きながら、2020年代を迎えることになります。


分断から拡大の時代へ突入するポーランド
14世紀から17世紀にかけてリトアニアとともに大王国を形成したポーランドは、1772年の第一次ポーランド分割以降、常に国土分裂の脅威に晒されてきました。第一次大戦後に成立した第二共和国も、1938年、ナチス・ドイツソ連が締結した独ソ不可侵条約の秘密条項によって、再び国土を分割されてしまいます。第一次冷戦期間はソ連の影響下に、第一次冷戦終了後は欧州連合に加盟し、国土分裂の脅威から開放されたかに見えましたが、第二次冷戦の勃発とともに再び国家の脅威に晒されることになります。

第二次冷戦期間中、具体的な支援になかなか踏み切れないドイツやフランスに見切りをつけた東ヨーロッパ諸国は、米国への依存度を高めていきます。一方の米国もロシアへの対抗上、東ヨーロッパ各国に対して惜しみなく経済的、軍事的援助を行います。特にポーランドは、スロバキアハンガリールーマニアのようにカルパティア山脈という自然防塞を持たないため、米国の経済的、軍事的支援に大きく依存せざるを得ず、また米国も戦略的にポーランドを重点的に支援します。

ロシアの自壊によって第二次冷戦が終焉を迎えた後、東ヨーロッパ各国、中でも米国から重点的な支援を受けたポーランドは、経済的、軍事的に、その存在感を急速に増していきます。そして、将来の脅威の芽を摘むため、東に向かってその勢力を拡大し始めます。2030年代には、東方への勢力拡大という共通の利益の下、ポーランドスロバキアハンガリールーマニアバルト三国が提携し、ウクライナベラルーシ、ロシアへ徐々に国土を拡大します。具体的に誰がどの地域を支配化に置くかを予想することは不可能ですが、例えば、エストニアサンクトペテルブルグ(ロシア)を、ポーランドミンスクベラルーシ)を、ハンガリーキエフウクライナ)を占領することも考えられます。こうした東進運動の中、ポーランドは東ヨーロッパ諸国の中心的な存在として、その影響力を周辺国に拡大します。


海を求めるポーランド
地政学的に見たポーランドの難点は、事実上、内陸地であるということです。確かにバルト海に接してはいますが、バルト海は内海であり、北海にでるためにはスカゲラク海峡(Skagerrak)を通過しなければなりません。スカゲラク海峡は、幅が80~90 kmしかなく、ここを他国に押さえられるとひとたまりもありません。ポーランドは、これに代わる海への出口をアドリア海に求めます。歴史的にハンガリーと親密なクロアチアは、同国最大の港町リエカ(Rijeka)をアドリア海に擁します。セルビアボスニアへの対抗上、スロバキアクロアチアは、2045年頃までにポーランドの傘下に入り、ポーランドはリエカをその勢力下に置きます。

こうして地中海への足がかりを手にしたポーランドは、同時期に勢力を急拡大したトルコと対立を次第に深めていきます。この時期、トルコはアドリア海のオラント海峡まで影響力を及ぼしており、地中海の覇権を巡り、バルカン半島ポーランドと対立します。また、トルコが北進し、ポーランドが東進した結果、両国はウクライナでも対立することになります。

この一連の動きに対して米国は、日本と共にユーラシア大陸で覇権を握ろうとしているトルコを封じ込めるべく、再びポーランドの支援を強化します。一方、隣国のドイツは、トルコに傾きます。ポーランドの行き過ぎた勢力拡大は、結果として米国の反発を招き、ドイツ国土に多大な被害をもたらす米国・ポーランド間の紛争を引き起こしかねないからです。


さて、以上で米国、日本、トルコ、ポーランド、ドイツといった主要な顔ぶれが揃いました。次回は、ジョージ・フリードマンが21世紀の大きな節目として描いた世界大戦(宇宙大戦)を物語風に紹介したいと思います。