21世紀の国際関係 −開戦前夜

前回、「次回は、ジョージ・フリードマンが21世紀の大きな節目として描いた世界大戦(宇宙大戦)を物語風に紹介したいと思います」と締めましたが、一度、2040年まで各国の状況をおさらいしておきたいと思います。

米国覇権の世紀
過去500年続いた北大西洋を軸とする欧州の時代が20世紀後半に終りを迎え、21世紀は、北大西洋北大西洋の中心に位置する北米大陸を軸とする米国の時代になる。これがフリードマンの基本観です。ここがしっくりこないと、これ以降の話もしっくりこないでしょう。フリードマンは、経済・軍事・政治それぞれについて、米国覇権が継続すると考える理由を挙げます(括弧内は私の補足です)。

  • 経済:2007年の米国のGDPは1,400兆円であり、世界の26%に相当する。これは、続く日本、ドイツ、中国、英国の四カ国のGDP合計よりも大きい(2008年10月に修正されたIMFの「The World Economic Outlook」によると、2013年の米国GDPは1,731兆円、これは世界の21%に相当し、続く中国、日本、ドイツの三カ国のGDP合計1,738兆円とほぼ等しくなります)。
  • 資源:米国は資源国である。2006年時点で、830百万バレルの石油を生産しており、これはサウジアラビアの生産量の85%に相当する。また、同じく2006年時点で、天然ガスを18.7兆立方フィート生産しており、ロシアに続く世界2位の生産量であった(生産量ベースでは中東諸国やロシアと拮抗しているように見えますが、埋蔵量ベースでは中東やロシアには到底及びません。ただし、世界の石油の6割以上が中東に埋蔵されていることを差し引いて考えなければならず、米国にカナダとメキシコを加えた北米地域としてみると、同地域はロシアに迫る石油埋蔵国になります)。
  • 国土:米国は、他国と比べると人口密度が依然として低い。一平方キロメートルあたりの人口でみると、日本が338人、ドイツが230人であるのに対して、米国は31人に留まり、これは世界平均49人よりも少ない。仮に耕作可能な土地で比較したとしても結果は同じで、人口密度の高いアジアに比べて、北米は5倍近くの拡大余地を擁する。
  • 軍事:米国は、その海軍力を持って世界の海をコントロールしている。どのような船であっても、米国の軍事衛星の目を逃れることはできず、どの海を航海するにせよ、米国海軍によって保護され、監視され続ける(以前に紹介しましたが、米国の軍事衛星の数は群を抜いています。米国の軍事衛星は137基で、ロシアが63基と続き、その後は、各国ともどんぐりの背比べ状態です(仏:10基、中:8基、英:5基、日本:3基))。
  • 人口:(2008年の国連の予測によると、日本とドイツの人口は、1.24億人(00年比▲2.4%)、0.80億人(▲2.0%)となり、2040年には1.1億人(▲13.3%)、0.74億人(▲9.3%)にまで縮小します。ロシアはさらに状況がひどく2020年に1.35億人(▲7.7%)、2040年に1.22億人(▲16.7%)まで人口減少が進みます。人口大国である中国も2020年には14.31億人(13.0%)と人口増加が進みますが、2030年代にピークを向かえ、2040年に14.55億人(14.8%)と人口減少社会を迎えています。人口増加率の減少は、労働力の減少だけでなく、国民の高齢化を同時に意味し、ダブルパンチで国力に響いてきます。これに対して米国は、2020年に3.46億人(20.3%)、2040年に3.89億人(35.1%)と、人口を増加し続けます。国連は、2050年を過ぎても米国は人口を増加し続けると予測しています。)

これらを背景に、フリードマンは、21世紀は米国(北米大陸)を機軸に展開されるだろうと予想します。他国の追随を許さない圧倒的な地位を得た米国の基本戦略は、米国覇権を脅かす新興勢力が台頭する前に芽を摘んでしまう、というものです。米国は、個々の紛争・戦争に完全勝利する必要はありません。米国は、各地の対立構造を利用して各勢力が拮抗する状況を作り出し、米国覇権に対抗できるだけ対抗勢力の台頭(結集)を防ぐことが出来れば十分なのです。


中国とロシアの自壊と新興勢力の台頭
米国覇権に挑戦する最有力候補と目されている中国とロシアですが、両国とも2020年までに自壊の道を辿ります。まず、中国ですが、「海の中国」と「陸の中国」をまとめるに十分な経済成長を達成することができず、中央政府の地方格差是正措置や国家主義を嫌う「海の中国」の地方政府が、日本を初めとする外資との関係を強め、次第に中央政府から離反していきます。こうして中国は、米国と具体的な衝突、対立をすることなく、内部分裂の時代を迎えることになります。一方、2000年代に経済的な復活を果たしロシアは、資源価格高騰によって得た利潤を軍事技術開発に費やし、軍事的な復活も果たします。2010年代前半には旧ソ連時代の領域の大部分を回復し、世界は第二次冷戦の様相を呈します。しかし、米国の支援を受けた東欧諸国の抵抗、国内の人口減少、経済的停滞等を背景に、第一次冷戦と同じくロシアの自滅という形で、第二次大戦は幕を閉じます。そして、ユーラシア大陸の二大大国が崩壊することにより、両国と国境を接する三カ国が新興勢力として台頭します。

21世紀の国際関係 ―第二次冷戦(〜2020年)

21世紀の国際関係 −張子の虎 (〜2020年)


東太平洋を支配する日本
2010年代から2020年代にかけて、日本は、深刻な人口減少問題に直面し始め、社会的、文化的に移民の受入が困難なことから、真剣に労働力を国外に求めるようになります。また、極東や東南アジアの天然資源も視野に入れ、2020~30年代に、これまでの平和主義から軍事拡張へ舵を切り、経済力、軍事力の両面で、太平洋地域における影響力を拡大し始めます。これに対して、米国も徐々に日本に対する危機意識を持つようになり、朝鮮半島を統一した韓国および中国を対日パートナーとして積極的な支援を開始します。日本は、米国との本格的な対立を避けながらも、2045年までには、自国の生命線である東南アジアから極東に至る一帯の制海権を握ります。

21世紀の国際関係 −方向転換を迫られる日本(2020~40年代)


イスラムの盟主として復活したトルコ
対ロシアのパートナーとして米国から支援を受け続けたトルコは、第二次冷戦終了後、経済的、軍事的に同地域において突出した存在となります。ロシアの崩壊に伴い、北はコーカサス地方を超え黒海沿いのクリミア半島オデッサまで、その影響力を及ぼすようになります。また、同じムスリム国家である中央アジア諸国もトルコとの連帯を強化します。一方、クルド人独立運動を嫌うトルコは、シリアとイラクの直接統治に踏み切り、その影響力はアラビア半島に及ぶようになります。さらに、東に目を向けると、エーゲ海を越えて、アドリア海の出入り口にあたるオトラント海峡にまでその影響力を及ぼし、黒海および東地中海における制海権を握ります。政情安定化を名目にスエズ運河を手に入れたトルコは、紅海を越えてペルシア湾までその軍事的な存在感を増大し、名実共にイスラムの盟主として復活を遂げます。

21世紀の国際関係 ―トルコ再び(2010~40年代)


東欧の中心勢力として台頭するポーランド
第二次冷戦中に米国から軍事的、経済的な支援を受けたポーランドが、トルコと同様に、第二次冷戦終了後に新興勢力として台頭します。そして、東方からの脅威の芽を摘むため、東に向かってその勢力を拡大し始めます。また、内海であるバルト海以外の海への出口をアドリア海に求め、2045年頃までに、セルビアボスニアと対抗するスロバキアクロアチアを傘下に収めます。こうして地中海への足がかりを手にしたポーランドは、同時期に勢力を急拡大したトルコと対立を次第に深めていきます。

21世紀の国際関係 ―分断から拡大の時代へ突入するポーランド


新興勢力に対する米国の反応
2040年代の米国は、2020年代の国内混乱の時代を経て、2028年もしくは2032年の大統領選挙で移民政策を含む政策的大転換を終え、再び経済的成長期に突入しています。また、この時期の米国は、極超音速爆撃機と宇宙空間をベースとした軍事システムを実現しており、宇宙空間における監視塔の役割を果たすバトル・スターがペルー沖合の静止軌道上、パプア・ニューギニア上空、ウガンダ上空に打ち上げられています(建設されています)。これに対して日本は2030年あたりからバトル・スターの非戦力化を本格的に検討し始め、2040年までに、月面に基地を建設し、各種実験を行っています。

21世紀の国際関係 ―五十年周期説と2030年の米国

21世紀の国際関係 −戦争の宇宙化

繰り返しになりますが、米国の基本戦略は、「米国覇権に対抗できるだけ対抗勢力の台頭(結集)を防ぐ」ことにあります。太平洋の両端で徐々に勢力を拡大する日本とトルコは、2040年中頃までに「米国覇権に対抗できるだけ対抗勢力」に成長する可能性を持つようになります。これ以上の日本とトルコの伸張を望まない米国は、経済制裁といった非軍事的な圧力に加え、韓国や中国、ポーランドといった反日・反トルコ勢力の支援を通じて、日本やトルコに対するプレッシャーを強めます。そして、両国に対して、2020年以前の国境線までの撤退を求めると同時に、日本海黒海ボスポラス海峡における米国の通航権を認めるよう迫ります。世界の覇権を握る米国との対立を避けたい日本とトルコですが、この要求を呑むことは、自立的な自国の生存権を放棄するに等しく、米国に追従するか、米国に対抗するか、大きな選択を迫られます。


そして世界はついに「その時」を迎えることになります。